2009/07/30

ファースト(仮) 5

はじめから
前回から


「これ…京浜東北? 電車の形してるんですね。かわいい」

女は攻め方を変えてきた。
それまで無表情だったのに、うっすら笑みを浮かべている。
しかしライターのことなど話題にされても返事をする余裕は未だない。

「彼女からのプレゼントだったりして」

なぜそれを知っている! 

得体の知れないものには触れないようにしてきた。
出方を悟られないように、自分からも動かないようにしてきた。
だが、この女は全てお見通しらしい。

「あ、図星でした? 私そういうカン、すごくいいんですよ。
 気味悪く思わないでくださいね?」

遅い! この状況で「気味悪く思うな」なんて無理だ!

「と言っても無理ですよね。
 私が何者か、すぐに言えればいいんですが順序が必要なんです。
 急に説明を始めるのはあなたにとってあまり良くないことなので」

もう、本当に無理。ぼくの思考にどこまでも食らいついてくる。
心を読めるならそう言ってくれればいいのに。

「…独り言みたいになっちゃいますけど、始めますね」

呆れたように言う彼女を尻目に、ぼくは逃げるように店を出た。
いや、実際に逃げた。
狼狽しながらもテーブルの下で用意していたコーヒー代をテーブルに叩き付けて。


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