2009/08/02

ファースト(仮) 8

はじめから
前回から


ユカへの怒りを内に秘めつつ、インターフォンが鳴り止んでもなかなか次の行動がとれなかったぼくは、そのまま眠りこけてしまった。

目覚めて確認した時刻は朝の6時だったが、ものすごい疲労感だ。
ぐちゃぐちゃになった毛布を布団からひっぺがすと、携帯が床まで転がり落ちた。

まだ開ききらない眼で電源を入れる。
きっとあの女からの「着信お知らせ」が何件か重なっているんだろうと思いつつ、心の隅で誰かからメールがきていないかなとも思う。

予想は外れて、女からの着信はあれ以降無かった。
メールも無く、拍子抜けした気分になる。
そもそも昨晩ここを尋ねてきたのがあの女と決めつけるのはあまりに早計だった。
あんな時間に来客など滅多にないが、ビビり過ぎだ。


それにしても昨日のように、何もかも自分の中で清算しきれないような出来事って今まであっただろうか。
自分は比較的、無感動な人間だという自覚がある。
映画だの漫画だのそういうもので涙を流すことはないし、恋人に別れ話を切り出されている時ですら隣の席の会話やら、背景に目がいってしまう。

それに悩む時期もあったが、想像するほど自分は特別な人間じゃない。
証拠があるわけではないが、それは経験でなんとなく学んできた。
無感動と言いつつ、修学旅行で見た日光の星空とか、色々なものが心に残っている。


……寝起きではあるが、そこまで考えて滑稽な自分に心底嫌気がさす。
そうやって愚にもつかない思考の末、いじけながら二度寝に入った。


「次に目が覚めた時、自分が生まれ変わってしまうことを知らない」という意味で、これが最後の幸せな時間だった。


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